輸入品を修理で海外のメーカーに返送する場合についての考察

60~70年代、電気製品が故障すると購入した近くの販売店で修理してくれたものでした。しかし、ネット通販が普及した今日では、販売店が物理的に遠方ということも多くなりました。また、製品の高集積化・高機能化により販売店での修理は事実上不能という製品も多くなってきています。

このような中、エンドユーザからの返送により直接修理を受け付けるメーカーが多くなってきました(センドバック方式)。また、技術進歩や可動部が少なくなってきたことにより、製品の信頼性が上がり、2年・3年といった保証期間を設けるメーカーも多くなっています。

ここでは、個人輸入した海外製品をメーカーに修理のために返送する場合の方法について、私のいくつかの経験と調べたことを元に記載します。ただし、すべて経験しているわけでないので、タイトルは「考察」としました。また、私は通関士の資格を有しているわけではないので、あくまで一般論、個人的な考えということでお捉えください。下記には誤りがあるかもしれません。先達・専門家のご意見・ご指摘がいただければ幸いです。

また、ここでは、送るモノの価額(「価額」については、下記参照)が20万円以下のモノを念頭に記載します。20万円を超える場合、輸出申告が必要となり、ハードルが高くなります。税関か通関士にご相談された方がよいでしょう。


1.メーカーの承認を得る

まずは、返送ならびに修理に関してメーカーの事前の承認を得ます。RMA(Return Merchandise Authrization)とも言われますが、返送修理を受け付けた証としての通番を言い渡されることもあります。


2.実際に送る(1) - 日本郵便の国際郵便サービスを利用する場合

個人が海外にモノを送るにあたって、一番身近なのが国際郵便でしょう。利用できるサービスとしては以下の3つが代表的なものです。

小形包装物

国内の定型外郵便物の国際版みたいなものです。重量2Kgまでで、包装に発送人と荷受人の住所・氏名をごく普通に記入(あるいは貼付)します。手段としてSAL便を選択すると結構安価ですが、いずれにせよ、トラッキング(荷物の追跡)はかかりません。途中で紛失しても何の保証もありません。欧米あたりは大丈夫でしょうが、それでも紛失の可能性は全くゼロではありません。

国際eパケット

重量2Kgまでなら、国際eパケットが便利です。主要先進国宛はトラッキングがかかります。利用に際しては、日本郵便のウェブサイトにある国際郵便マイページサービスに登録する必要があります。このページで送り状や税関告知書を自宅のPCで作成できます。また、送り状を入れるためのパウチ袋の請求(無料で届けてもらえます)もここからできます。最初、とっつきにくいかもしれませんが、慣れると便利です。税関告知書の作成さえクリアできれば、もう、国内の宅配便の発送と同じ感覚です。ただ、補償額は6,000円が限度ですので、万が一、紛失した場合が心配でならないという方は国際小包を選択することになります。個人的には、壊れていてメーカーに修理依頼するか、新品を買い直すか、それ以外に手はないという場合、補償額を気にしても仕方ないと思うのですが・・・

国際小包

2Kgを超えるものは、国際小包となります。こちらも、国際郵便マイページサービスから送り状や税関告知書を作成できます。重量が増すほどに送料が増えていきます。10Kg位になると結構高くなります。買った時の送料に比べるとずいぶん割高だなと感じます。日本だからということと、向こうの売主は法人向けの割引レートが適用されているからでしょう。欧米だと2か月ぐらいかかりますが、送料を抑えるための選択として船便もありです。

なお、最近は航空機へのリチウムイオン電池の搭載が厳しくなってきています。同電池を内蔵した電気製品は、国際郵便での引き受けを断られる場合が多くなっています(郵便局の窓口で聞かれます。きちんと答えてください)。そのような場合、船便か以下の運送会社を用いることになります。実際、私も、仕入にあたって国際小包を使えず、Fedexでの配送を頼んだことがあります。


3.実際に送る(2) - 日本郵便以外の運送会社(Fedex、UPSなど)

私は、送りで使ったことがないのですが、税関告知書を書かねばならないのは郵便と同じです(これは国のルールなので)。送り状の書き方はそれぞれの会社に尋ねれば、教えてもらえると思います。郵便に比べれば、料金は概して高額になります。


4.梱包について

国内の宅配便に比べると、手荒に扱われること必至です。外箱とモノの間のスペースには余裕を持たせましょう。航空機の離着陸の衝撃で中身が動かないように、緩衝材を十分入れておきましょう。荷物全体に占める梱包の重量って、結構バカにならないのですが、これをケチると故障個所が拡大したりしてあとで痛い目にあうかもしれません。


5.税関告知書を書く必要があります

海外にモノを送るにあたって、一番ハードルが高いのがこれでしょう。通常、英語で書くのでしょうが、送り主と相手先の住所氏名は問題ないでしょう。問題なのは内容品の説明と価額です。
記入に際してご自分の頭の中に叩き込んでおくことは、「これは壊れた私物を修理のためにメーカーに返送するのだ」ということです。これをしっかり理解しておかないと、書く段になって日本人の生真面目さが不利に働きます。

私物ですので、メーカーがつけた製品名を書く必要はありません。一般的な普通名詞を使って書けばいいのです。例えば、"Radio Communication Equipments"(無線通信器具)、ただ、複数個同時に送るのなら、参考として個々の製品名を書いておいてもよいでしょう(あくまで参考です)。

フォーム(様式)によってまちまちだと思いますが、いずれにせよ、商取引でないことを明示する必要があります。
修理のための送付であることも書いておいた方がよいでしょう。"return to repair"とか。メーカーは"manufacturer"、"supplier"、日本語をそのまま英語にした"maker"は通じません。私物の英訳としては、"personal belongings"、"personal property"。不幸なことに、最初から不良品に当たった場合は"defect"(欠陥品)。

送るものの価値"value"を書く欄があります。注意してご覧ください。"value"(価値)とあります。”price"(価格)とは書いてありません。壊れているから価値はゼロです。国際郵便マイページでの入力時にゼロがエラーとなるなら、備忘として1円(JPY1)です。購入時の金額やその商品の販売価格を書く必要はありません。一部の機能が壊れているのであれば、だいたいの価値にしておきます。「申告」ですから、ご自分が「だいたいこのくらいかな」と思う価額を書いておけばいいのです。ただし、税関は開封してチェックする権限を持っていますから、ウソをついてはいけません。なお、価額を小さくすると紛失時の補償額も小さくなります。大きいほど相手国側の税関の目につきやすくなります。

ご丁寧にメーカー名や製品名称・品番を書いたりすると、商取引と疑われます。日本側の税関は通っても(まあ、日本語で事情を説明できますから・・・)、荷受人の国の税関でストップする可能性があります。自国の産業を保護することは税関の仕事の一つです。荷受人が税関から「インボイスを出せ」と言われたりします。もちろん、そんなものはないので(私物の送付ですから)、着荷側の税関で滞留することになります。ちなみに国際郵便マイページサービスでは、作成した送り状、税関告知書などをPDFフォーマットで出力してくれるので、それを荷受人にメールで送っておき、荷受人から説明してもらえるようにしておくのも手です。

面倒くさいから・よくわからないからといって、「参考にと」購入時の領収書(receipt)や納品書(devivery note、packing slip)のコピーを税関告知書に添付したりしてはいけません(通関のために税関に呈示する書類と、修理のためにメーカーに呈示する書類を峻別して考える必要あり)。却って話が複雑になります。日本人の親切心がアダになるとはこういうことだろうと思います。

ネットでこのような経験をされた方のウェブやブログを拝見しているとインボイスを記入している例が見受けられますが、代理店がお客さんのモノを預かって送る場合はともかく、個人が自己の私物を営利目的以外で海外に送るのに、なぜインボイスを書かねばならないのか疑問に思っています(為念ですが、税関告知書は必要です)。国際郵便のホームページにもインボイスは任意とあります。

私は当サイトの商品を海外に出荷したことがあります。代金は前払いでpaypalでいただいたので、インボイス(請求書)など付けません。Delivery Note(納品書)に、決済残高ゼロと記します。あとは税関告知書だけです。でも、ちゃんと届きました。本稿を読まれている皆さまも海外のショップにてカード決済で購入された方もいらっしゃると思いますが、インボイスがついていないことが多いと思います。


6.戻ってきた時のための処理

関税はともかく、話をやっかいにしているのが日本の消費税だと思います(為念ですが、関税と消費税は別物です)。消費税は名前のとおり、消費する側が払う税金です。売った側が払う売上税とは違います。修理から戻ってきた物に対して税関が受取人(つまり、もとの所有者)に消費税を課税するのは当然の流れです。最初に購入した際に払っているのにです。ですから、二重払いです。これを避けるには、修理が終わって返送する際に、メーカー側で、税関告知書に価額としてゼロもしくは備忘としての僅少額(無償修理の場合)、または修理額のみ(有償修理の場合)を記載してもらうことです。小さいメーカーだと、修理依頼時あるいは修理が終わって連絡があった際ににそう頼んでおけばいいのですが、大きいメーカーだとそういかず、紛失時の補償額を大きくするため、製品本体の販売価格を書いてくる可能性もあります。彼らは日本の消費税のしくみなぞ知りませんから。

話は続きます。修理額だけを記載してもらった場合でも、到着した際に税関が不自然だと思った場合、詳しく調べられます。明らかに何十万円もする機械なのに、価額がゼロとか数万円ぐらいだと、当然説明が求められます。

これを避けるには、送付時に再輸入の手続き(「自分の元に戻すぞ!」という宣言)をとっておくことです。税関に聞けば教えてもらえます。ただ、税関に実際のモノを持ち込んで手続きを取る必要があります。書類を記入する必要があります。また、税関側も戻ってきた際の同一性を確認するための証拠を取ります。製品シリアルを記録したり、それがない場合、写真撮影されます。

問題はその手間です。送るときと受け取るときの2回です。税関というのは、全国あちこちにある機関ではありません。ですから、税関に行って手続きをする手間と往復の交通費を考えて、最悪消費税が課税されてもやむなしと考えるか、きちんと手続きをとっておくか、修理品の価値に応じて判断すべきことでしょう。

あと、想像の域を出ないのですが、メーカーからの返送時にインボイスをおこしてもらい、修理対象物と修理に項を分けてもらって「これはもともと荷受人が所有する修理品の返送であり、修理代金以外はNo commercial valueである」と書いてもらうと、日本の税関で、それに沿って対応してもらえるのかどうか・・・。つまり、上述にあるように、こちらから送る際に「修理品の送付であり、商品価値はない」と書いたことの裏返しです。でも、海外のメーカーにそのようなお願いをして、対応してもらうには、よほどの修理代金であるか、ネゴシエーション能力が必要かと思います。

ちなみに、税関というとなんとなく謹厳なイメージがありますが、結構親切です。私は羽田空港そばの横浜税関の出張所に何度か足を運んだことがありますが、こちらが申し訳なく感じるくらい、親切に付き合ってもらえます。書類の書き方も教えてもらえます。国際郵便局と税関が同居している場合が多く、税関での手続き終了後、そのまま海外に送れます。また、受け取った際に、以前と同じ税関事務所に行く必要もありません。


7.参考リンク

日本郵便

国際郵便 - 小形包装物    国際eパケット    国際小包

国際郵便 - 税関告知書について    国際郵便マイページサービス

税関

修理のため貨物を輸出する際の税関手続

その他

内外価格差を利用して、海外からPCパーツなどを個人輸入され、それを修理のために返送した際の経験をウェブやブログに書いている方が多くいらっしゃいます。ここは商用サイトなので、これら個人のサイトを引用することは差し控えますので、ご自分でお調べください。


終わりに

残念ながら、世界における日本の存在というものはだんだん小さくなってきています。80年代後半のバブルの時代は、世界が「日本」というものに近づいてきてくれました。が、今は以前ほど日本のことを気にかけなくなりました。私は盲目的にグローバリズムを信奉しませんが、やはり、日本人の方からある程度、世界に近づいていく必要があると思います。日本人が、海外とのやり取りをすべて代理店に任せていると、コストが高くつきますし、国内販売品だけで我慢していると世界の最先端の動きに取り残されることになります。最初のちょっとした勇気で解決すると思います。

本稿が個人輸入や海外のネットショップでの購入を考えていらっしゃる方の不安軽減の一助になれば幸いです。

店主(2016年4月)